カフェとデザインの緊密な関係
インタビュー:土肥正人さん(土肥商店)
ロゴや看板だけではない。空間、照明、動線、体験のすべてが「設計」されているとしたら。デザイナーたちがカフェに込めた思想を、カウンター越しに語り合います。
書き起こし
Vol.6「カフェとデザインの緊密な関係」本編の会話を、読みやすく編集してお届けします。(出演:鈴木謙太郎/川筋愛友、メッセージ:篠田愛香・佐藤美月、インタビュー:土肥正人)
ゴッホと、カフェという場
第6回のテーマは「カフェとデザインの緊密な関係」。番組の告知にゴッホの「夜のカフェテラス」を使ったんですけど、あの絵、上野の森美術館に来るらしいですよ。舞台はフランス南部のアルルにあったカフェで、19世紀のアルルでも、職員や商人、知識人たちがカフェに集まって議論し、情報を交わしていた。札幌も、喫茶店が生まれた頃は、政府に雇われた外国人技師やインテリたちが集まる場だったと言われていて。カフェって、いろんな人が集まって議論する場所だったんですよね。
デザイナーとカフェの近さ
僕も若い頃、駆け出しのデザイナーやクリエイティブの人たちと、カフェでずっと喋っていました。当時はとにかくフライヤー文化で。Macを手に入れたら、個人でフライヤーの依頼を受けて作って、かっこいいカフェに置いてもらう。カフェにはフライヤー用のテーブルがドーンとあって。デザイナーやクリエイターって、昔からカフェと接点が近い気がするんです。そもそもデザインって、ロゴや看板をイメージする方も多いけど、本来は「設計」なんですよね。
二人のデザインの原点
お店って、私が好きなもので構成されているので、私の美意識そのものなんです。「これが好き」というのが幼い頃から決まっていたので、その点は楽だったかもしれない。
僕は逆に、自分の好きなものを探す旅でした。僕の作る映像は「色が薄い」とよく言われる、いわゆるフィルムライクで。昔から、いかに赤を抜くか、ローコントラストが好きで。両親がデザイン系だったから、印刷物が身近にあって、父と年賀状をMacで作るのが定番でした。父は札幌でも一、二を争うスピードでMacに触れていた人だと思います。
「枯淡珈琲」のロゴは、明朝じゃない
気づいている人、いるのかな。枯淡珈琲のロゴは、実は明朝体じゃないんですよね。しかも角丸のラウンド、丸ゴシックで。「なんで?」と聞いちゃいました。
これは母の影響で。昔は写植だったので、レタリングの本が自宅にあって、幼少期から写植したりして。書体オタクみたいなところが、ちょっとだけあるのかなと。休みの日に家族で筆記用具屋に行くのが好きだったり。名刺にトレーシングペーパーを使っているのも、身近にトレーシングがあったのが事の発端で。
メッセージ ― 篠田愛香さん(N合同会社)
南小樽を拠点に、2010年から元薬局をリノベーションした「旧岡川薬局 CafeWhite」、2023年からは「山ノ上の坂スタンド&ベイク」を運営しています。どちらも小樽市指定の歴史的建造物を利活用していて、ロゴやパッケージ、メニュー開発と撮影まで自社でデザインワークをしています。デザインは、単に見た目を整えるものというより、関係性を作るものに近いと思っていて。その場での体験だけでなく、帰った後にどう思い出してもらえるか、どんな余韻が残るか、というストーリーも含めてデザインだと捉えています。昔からある良さを、今の人が価値を感じられる形に整えていく——過去と今、人と人、地域との関係を編み直していくことが、私たちのお店にとってのデザインです。
メッセージ ― 佐藤美月さん(commune)
札幌市手稲区曙で、コーヒースタンド「YETI STANDING」などを運営しています。平日はデザイナー、週末はお店に立つ、という二つの視点で携わっていて。デザインというとロゴや内装を思い浮かべますが、大事なのはそれだけではなくて、空間の作り方、メニュー、声かけ、注文から受け取るまでの流れ、過ごしやすさ——目に見えにくい部分も含めた体験そのものだと思います。挨拶の声のトーンを設定したり、カウンターと席の距離感やライティングの角度を調整したり。わざわざ足を運んでいただく立地だからこそ、体験全体をどう設計するか。見た目も、それ以外の要素も、両方を含めてデザインだと捉えています。
インタビュー ― 土肥正人さん(Cafe Blue/Harry)
今回は取材もしてきました。狸小路市場を中心に展開する土肥商店の役員で、Cafe BlueとベーカリーHarryに関わる、土肥正人さんです。デザインとお店の関係を、どう捉えていますか。
メニュー表の撮影やSNS、パッケージのデザインもありますけど、マネージング——一人ひとりに声をかける仕事のほうが多いかもしれません。うちは新作がめちゃくちゃ多くて、それは企画力だなと。僕が考えてもいいんですけど、スタッフに考えてもらわないとスピードが上がらないし、スタッフが好きなものじゃないと美味しいものは上がってこない。だから、僕がデザインするというより、スタッフにデザインしてもらう、という意識のほうが高いかもしれないです。
生菓子、焼き菓子、ギフト、デイリーに食べられるもの——いいお店って、そのバランスでできているんです。それをこの界隈でも、例えばCafe Blueは時間を消費してもらう場所だから生菓子、デイリーならHarry、ギフトなら新店舗、と役割をはっきりさせたら、この地域全体がみんなの目的地になるんじゃないかなと思っていて。
カフェやお店が、その街の顔になっていく。デザインには、そういう力がある。今回いただいた話の多くが「デザインは見た目だけじゃない」で一致していて、結果的に、動線というか、設計の話が聞けたなと思います。
B-Side NOTES ― D&DEPARTMENT OSAKA(南堀江)
今回も、もうなくなってしまったお店の話を。大阪・南堀江にあった「D&DEPARTMENT OSAKA」のカフェです。D&Departmentは、ロングライフデザインをテーマにしたセレクトショップで、創設者はグラフィックデザイナーの長岡賢明さん。僕は北海道店のスタッフとして在籍していました。大阪店のカフェが特に印象的だったのは、低いロビーチェアと広い空間で。低いところに腰を沈めて、高い天井を眺めると、すごく広く感じて、抜け感とゆったりした時間の流れが本当に良かった。南堀江という、工房やクリエイターの気配のある街の雰囲気と、ロングライフデザインという哲学がぴったり重なっていて。今でも、あの低い目線から見た空間のことは鮮明に覚えています。
おわりに
デザインって口にすると、洋服やプロダクトのような、形あるもの、おしゃれなもの、と思われがちだけど、そうじゃなくて、伝える手段なんですよね。そもそも、デザインのないものはない。皆さんも、カフェに置いてある印刷物をぜひ手に取ってみてください。お店の色が見えて、面白い出会いがあるかもしれません。配信と同時に、番組の雰囲気に合わせたソングリストをSpotifyにアップしています。お届けしたのは映像ディレクターの鈴木謙太郎と、
枯淡珈琲の川筋愛友でした。ありがとうございました。
※ 読みやすさのため、話し言葉を一部整えています。内容は本編音声にもとづきます。聞き取りづらい一部の固有名詞は、確認のうえ表記しています。