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Vol.19 ものに、役割を / Let Things Do Their Work Vol.19 | 2026.10.24 配信

ものに、役割を

接客の達人が語る、伝統工芸との付き合い方

ゲスト:わしこさん(和モダンN6北円山・@washikokimono)
和モダンN6北円山:@wamodern_sapporo

今回のゲストは、中央区北円山で全国の伝統工芸品を扱うショールーム「和モダンN6北円山」のわしこさん。かつてJRタワーの接客ロールプレイングコンテストで優秀成績を収めた接客のプロで、鈴木とは10年以上前からの知り合いです。説明は1から10まで、しない。キーワードをひとつ「ポトンと落として」、あとはお客さまが気になるところへ寄り添っていく——そんなわしこさんの接客の流儀から、話は工芸品の使い方へ。「そのものに与えられた役割を果たしてあげてください」。工芸品は飾るためではなく、使われるために生まれてきた。職人の手が物語るもの、使いながら一緒に時を刻むということまで、カウンター越しにうかがいました。

■ B-Side NOTES(40:10から) ・シルディ ― かつて円山坂下にあったカレー屋さんと、手に馴染む器

※ Spotifyアカウントなしでも30秒お試し再生できます。続きは各プラットフォームで。

書き起こし

Vol.19「ものに、役割を ―― 接客の達人が語る、伝統工芸との付き合い方」本編の会話を、読みやすく編集してお届けします。(聞き手:鈴木謙太郎/川筋愛友、ゲスト:わしこ)

ゲスト・わしこさん

鈴木

今回のゲストは、和モダンN6北円山のわしこさんです。よろしくお願いします。

わしこ

よろしくお願いします。

鈴木

わしこさんとは、実は12、3年前からの知り合いで。その頃から「わしこさん」という愛称で呼ばれていたんですよね。JRタワーの地下にあった、着物のお店にいらして。

わしこ

着物屋なんですけど、レンタルもやりつつ、和小物も扱っていました。

川筋

私、そこで浴衣を買ったことがあります。10代の頃に。

わしこ

えー! 私が接客していたら嬉しいけど……さすがに記憶にない(笑)。

接客ロールプレイングコンテスト

鈴木

出会いは、JRタワーの「接客ロールプレイングコンテスト」でした。売場の担当者が、お客さま役を相手に接客するのを競う。

わしこ

模擬接客ですね。時間内で。

鈴木

わしこさんはそこで優秀成績者になって、僕はそのコンテストの収録をしていたんです。最後まで付き合って。

川筋

収録は、どこに流すんですか。

鈴木

後でビデオにして、皆さんに配る感じ。優勝すると、ショッピングセンター協会の全国大会に出るんです。

わしこ

ステラプレイス、アピア、パセオ、エスタの4つの館から、それぞれ代表を選抜して競い合うんです。みんなで協力して、応援しまくって。すごく盛り上がりました。

鈴木

そんなご縁で知っていたわしこさんが、なんと枯淡珈琲とお取引があると聞いて。それならぜひお話を、と。

わしこ

枯淡珈琲さんのおいしいコーヒーを、お店に来るお客さまに知っていただくために、ドリップバッグと豆を販売させてもらっています。

和モダンN6北円山という場所

鈴木

和モダンは、いわゆる和の伝統工芸を扱っているお店、ということになるんですよね。

わしこ

全国の伝統工芸品を中心に、「ものづくり」と「和モダン」という2つのテーマに沿って、工芸品や作家さんのものを紹介しています。私たち自身もものを作る側なので、建材やパネルも含めて紹介する、店舗でもあり、ショールームでもある場所です。

鈴木

母体はヤブシタさんですよね。

わしこ

母体のヤブシタは冷熱部材を作っている会社で、代表は自分たちのことを「ものづくりの総合カンパニー」と呼んでいます。ものを作ってきたという共通点から、伝統を受け継ぐ作家さんたちへのリスペクトがあって。作家さんたちにも、それぞれ難しい事情がある。その現状も知りながら、日本にある素晴らしいものを知ってもらう場所を、地元の札幌につくりたい——そんな思いでできた施設です。

鈴木

どんなものがあるんですか。

わしこ

枯淡珈琲さんとつながるところでいうと、有田焼のコーヒーフィルター、南部鉄器、それから枯淡珈琲さんのコーヒーを淹れて飲んだらおいしいマグカップ。ほかにも切子や箱根の寄木細工など、一度は目にしたことがあるけれど、名前を聞いて「これがそうだったんだ」と思うようなものが、所狭しと並んでいます。

茶室と、海外からのお客さま

鈴木

1階に茶室があって、着付けの体験もできるんですよね。

わしこ

着付けとお茶会の体験ができます。私、着付けもするし、お茶も点てます。

鈴木

テレビの取材も拝見しました。海外からのお客さまも多いとか。

わしこ

すごく増えています。私は英語が全く話せないので、ノリと勢いで乗り切ってます(笑)。ネイティブのスタッフに通訳に入ってもらって、私は着付けとお茶を点てる体験を担当しています。最近はツアーでのお問い合わせもあって。

鈴木

お買い物にもつながるの?

わしこ

もちろん。海外では抹茶ラテがブームですけど、ミルクを入れて甘くして飲むのが普通で。お茶会の体験でお抹茶だけを飲むと「これをやりたい」となって、お抹茶と茶筅など、点てるための道具を買って帰られる方もいます。

1から10まで、伝えない

鈴木

接客で、作家さんや商品の持っているストーリーを伝えるとき、意識していることはありますか。

わしこ

1から10まで、全部は伝えない。

鈴木

想像させる、ということ?

わしこ

うちにはモニターもあって、商品によっては職人さんの制作風景を映像で見てもらえるんです。だから、興味はあるとはいえ、0から10まで説明したら眠くなると思う(笑)。まず「これってこういうものですよね」というキーワードを、ひとつポトンと落とす。お客さまによって気になるポイントは違うので、この人にはここまで伝えたいと思えば伝えるし、そうでない方には、使ったときに感じることや、ものづくりの背景だけじゃない、体験につながることを伝えたりしています。

職人の手が、物語る

鈴木

六本木に「21_21 DESIGN SIGHT」という美術館があって。2012年に、東北の職人さんがつくるものや食を展覧会として見せる「テマヒマ展〈東北の食と住〉」をやっていたんです。ディレクターは佐藤卓さんと、プロダクトデザイナーの深澤直人さん。衝撃的だったのが、職人さんの手の写真がずらっと並んでいたこと。荒れていて、しわがあって、染め物の色が入り込んだ手。それだけで、もう説明はいらないんですよね。ものを伝える技術ってあるんだなと、強く思いました。

わしこ

わ、好き。うちでも南部鉄器の映像を流しているんですけど、その中に職人さんの手元が映るんです。私、その手がとても好きで。お風呂にずっと浸かっているとしわしわになるじゃないですか。そういう中で作業しているから、手がしわしわで、皮もきっと厚くなっている。そこに、仕事のすべてが物語られている気がして。

鈴木

工芸品には、人の体温みたいなものがあるしね。

ものに、役割を

鈴木

ここからは率直に聞いていこうかと。伝統工芸品って、お高いじゃないですか。ともすれば飾り物になってしまいそうなものを、飾らずに使う。その贅沢さや良さって、どんなところにあると思いますか。

わしこ

お客さまとお話していていつも思うんですけど、私は「そのものに与えられた役割を果たしてあげてください」と言うんです。

鈴木

かっこいい。

わしこ

着物は着られるために着物の形になっているし、切子は飲み物を飲むために作られている。生まれるにあたって、必ず役割を与えられているんですよね。なのに「もったいない」という言葉ひとつで寝かせてしまうのは——この言葉を使っていいのか、はばかられるんですけど——ものを殺しているのと変わらないと思っていて。壊れたら困る、汚れたら困るから使わないと言うけれど、黙っていても見えない傷はグラスに入るし、着物もタンスに寝かせていればカビも生えるし、虫も食う。使わなければいい状態が保てる、という保証はないんです。

わしこ

だったら、自分で傷をつけてしまえ、と私は思うんです。そうすることで、一緒に時を刻める。思い出をつくって、たとえば少し欠けても「あのときこうだったから欠けちゃったんだよね」と思い返せる。今は使えないけど捨てるにはもったいないから飾っておこう、それを眺めながら別の器でお酒を飲む——そんなふうに、ちゃんと役割を与えてあげてほしい。お客さまには、そう伝えるようにしています。

鈴木

しかも伝統工芸品って、直せるものが多いんだよね。木のものは割れても直せるし、金継ぎも人気でしょう。

わしこ

うちでも来年の春ごろ、漆器の職人さんを呼んでワークショップをやろうかなと思っています。

組子のコースターと、作り手たち

鈴木

今、実際にやっている体験は?

わしこ

茶道と着付けの体験と、コースターの製作体験です。組子の職人さんに部材を作ってもらって、お客さまが自分で組んで、コースターにして持ち帰る。楽しいけど、難しいんです(笑)。

鈴木

贅沢だな。パーツは、それ用に作ってもらっているの?

わしこ

もともと職人さんのところでワークショップをやっているという話があって、うちでもやりたいと。パーツを送ってもらって、できるようにしています。

鈴木

職人さんたちも、今の日常に沿って使えるものを工夫しているんだね。

わしこ

そういう方は、増えてきていると思います。

鈴木

このあいだは、綴(TSUZURU)さんのところにも行ってくれたって。

わしこ

和ろうそくを、うちで扱おうかなと思って。たまたま江別で、知り合いの作家さんに会いに行ったら綴さんが出ていて。話しているうちに「実はコーヒー屋さんから……」「それって、もしかして」と、つながったんです(笑)。和ろうそくを買わせていただいて、家で灯しまくっています。

川筋

枯淡珈琲のコーヒーを使った和ろうそくも、綴さんに作ってもらっているんです。

鈴木

あれ、もう作ったの? もうすぐ販売?

川筋

もう売ってます。

いま、気になっている作り手

鈴木

最近、気になっている工芸品はありますか。

わしこ

先日出会ったラタンの作家さんが作っていたピアスで、デザインが水引の柄なんです。作り方を間違えたら絶対に折れちゃうと思うのに、それを作れてしまう。ラタンだから軽いし。思わず大きいのを買っちゃいました(笑)。

川筋

小ぶりなのかと思ってました。

わしこ

それと、「よくぞやってくれた」とちょっと嬉しかったのが、曲げわっぱ。北海道の木を使った「エゾわっぱ」を、江別の工房で作っている作家さんがいて。もともと教員をされていて、引退後に木工の学校に通って、作家デビューされた方なんです。お人柄がまた、尋常じゃなくいい方で。うちでも扱いたいと思っています。

鈴木

北海道の作り手を、探しに行ったりもしているの?

わしこ

めちゃくちゃ行ってます。今日も昼間に行ってきました。休みの日は、イベントがあればどこへでも。先日は旭川の陶芸のイベントにも。顔見知りの作家さんも、はじめましての作家さんもいて、回数を重ねて会っていくとコミュニケーションが取れるようになる。そういう方たちとのコミュニティをつくるために、行ける限り顔を出しています。知っている方がいらっしゃったら、ぜひご紹介ください(笑)。

鈴木

今日は、和モダンN6北円山のわしこさんに来ていただきました。ありがとうございました。

わしこ

ありがとうございました。

おわりに

鈴木

さすがのトークでした。接客ロールプレイングコンテストを一緒にしていた頃から、話が達者で。ロールプレイングコンテストって、ある意味お芝居みたいなものじゃないですか。それなのに、見ていて引き込まれる。ファインダー越しに見ていて、感動させられた瞬間が何度もありました。販売員のスキルもあるけど、お客さまや商品が、その人のスキルを上げていくところもきっとあるよね。

川筋

あります、あります。お客さまの存在がお店を育てている、と本当に思います。自分には何ができるんだろうと考えながらお客さまと話して、「あ、これこれ」となる場面が多々あります。

鈴木

自分ひとりで成り立っているものなんて、ひとつもないよね。

川筋

お店をやっていても、誰も来なかったら始まらないですからね。

※ 読みやすさのため、話し言葉を一部整えています。内容は本編音声にもとづきます。後半の B-Side NOTES(40:10〜/シルディ)は、本編の音声でお楽しみください。