作品に宿る「優しさ」と「肯定感」
ゲスト:PEPIさん(イラストレーター・@pepi_jun)
今回のゲストは、イラストレーター・アーティストのPEPIさん。一枚の絵に人や動物、物がたくさん棲み、見る人によって見え方が変わる作品を描きます。精神科の作業療法士として長年働き、65Lのバックパックで世界を巡った旅を経てたどり着いた表現。批評ではなく祝福に近い——「あなたはここにいていい」と語りかけるような、作品に宿る優しさと肯定感。そして「人からもらった愛情は消えず、別の誰かへ渡って繋がっていく」という絵に込めた思いを、カウンター越しに聞きました。
書き起こし
Vol.16「作品に宿る『優しさ』と『肯定感』」本編の会話を、読みやすく編集してお届けします。(聞き手:鈴木謙太郎/川筋愛友、ゲスト:安田PEPI)
ゲスト・安田PEPIさん
今回のゲストは、川筋さんのお友達で、イラストレーター・アーティストの安田PEPIさん。僕がPEPIさんと初めてお会いしたのは、ライジングサンロックフェスティバルの会場で。素晴らしい絵でしたよ。会場の中の、ちょっと変わった癒やしのエリアで、壁に絵を描いて出されていて。その作品を見て、ぜひこの番組に、と思っていました。
よろしくお願いします。
川筋さんとは、どのくらいのお知り合いなんですか。
お店を始めた頃だから、2年くらいかな。
林商店というところで個展をやっていた時に、いろんな人から写真をもらって、その人の絵を描き続ける、ということをやっていたんです。大きなポスターに、線で人を描きまくっていて。
それを見て、「私も描いてください」とお願いして。そこから来てくれるようになった、という感じです。
僕がPEPIさんの名前を知ったのは、みゆき通りのイベントのフライヤーで。あのイラストを見て、名前を調べて、すぐフォローしたはずです。そうしているうちに、川筋さんから「ライジングにPEPIさん出るよ」と聞いて、じゃあ行こう、と。僕はライジングを、19回目くらい、ほぼ全部。金曜の朝に入って、土曜からはずっと会場にいて、2日間撮影している。もう20年近く行かせてもらっています。
セラピストとして働いた約20年
プロフィールを見せていただいたら、精神科のセラピストとして働かれていたんですよね。クリエイターとしては珍しい経歴だと思うんですが。
作業療法士です。総合病院で最初の5年ほど働いて、その後は精神科の病棟へ。それから精神科の訪問看護に移って、地域で暮らす精神疾患を持った方の生活をサポートする仕事をして、その後は高齢化した地域のデイケアで働いていました。公式のプロフィールには約20年と書いていますが、途中で働けない時期もあったので、だいたいそのくらい、という感じです。
セラピストになったきっかけは。
もともと、子どもの頃から絵や粘土をいじるのが好きで。家族から「医療系の仕事に就いてほしい」とずっと言われ続けていて。作業療法士は、リハビリの中で絵を描いたり、粘土や陶芸をしたりする。「あなたに向いてるんじゃない」と言われて、絵に関わりながら働けるならと。実際は全然違いましたけど(笑)、親がうまく乗せてくれたおかげ、というか。田舎育ちで、友達と会うにも歩かないといけなくて、家で一人で描いているしかなかった。だから、ほぼ独学です。
65Lのバックパックで世界へ
途中で仕事を休んで、旅をしていた時期があったとか。
親の世代って、同じ職場で長く働くのが正しい、と教えられてきた世代で。総合病院で5年働いて、次の精神科では骨を埋めるつもりで働かなきゃ、と思った時に、「じゃあこのタイミングで、やっていないことをしておこう」と。海外に行ったことがなかったので。貯金もなくて手元に100万円しかなかったから、バックパッカーならお金がかからないかなと。エルレガーデンというバンドが好きで、そのボーカルがバックパッカーだったのを知って、アジアを回ろう、と始めたのが最初の旅でした。
どんなところを。
アジアは、タイからラオス、ベトナム、カンボジア、マレーシア、シンガポール、またタイに戻ってミャンマーを一周して、インドを一周して帰ってきました。タイが中間地点で、バックパッカーが集まる場所なんです。いろんな国で出会った仲間たちと「何月何日に集まろう」と約束して、チェンマイのランタン祭りにみんなで集まって、ランタンを飛ばして。ヨーロッパも少し、バルセロナやフランスへ。全部で半年くらい。アジアを回っていた段階では、まだ30万しか使っていなくて。宿も100円くらいで、いいところに泊まれた。「400円の宿は高い」と思っていました(笑)。
アートで生きるということ
バックパッカーをした時に、好きなことをやっている人にたくさん出会って。「自分の好きなことって何かな」と思った時に、絵が好きだ、と。精神科でリハビリをする時も、その人に「何が好きか」を聞いて、好きなことのために目標を立てる仕事だったので、自分の好きにも向き合うようになって。最初はデジタルのイラストレーターとして始めました。「これで食べていこう」なんて最初は思っていなくて、とりあえず好きなことをちゃんとやろう、というところから。海外に行くと、好きなことを明確に言える人が多いんですよね。それがかっこいいなと思ったのが始まりです。
一筆目と、ゴールを決めない制作
一筆目を入れる時、どんな準備をしてから入るんですか。
最近思ったのは、どれだけ整えようが、一筆目は失敗するんですよ。だから一筆目は特に気にしないで、「ああ、こんな感じか」と置いて、そこからどんどん整えていく。普段の作品はゴールを決めていないんです。今回のライジングは2日間で仕上げないといけないので、なんとなくは決めていきましたけど。自分の疲れ具合と、いい具合を見ながら。デジタルのクライアントワークは最初からラフを決めてやりますけど、アナログは自由に。お尻が詰まっていないとできないタイプで、展示初日の朝にできたり(笑)。
私も、ギリギリじゃないと動けないタイプだから、分かります(笑)。
スーパーフラット、スーラ、「正解のない絵」
他の絵も見せてもらって思ったんですけど、PEPIさんの絵って、スーパーフラットの影響を受けていますか。村上隆さんの文脈というか。
スーパーフラットって何ですか、という感じで(笑)。学校を出ているわけでもないので、単語はあまり。でも、スーラは知っていました。ジョルジュ・スーラ、大好きで。
デジタルの色使いが、すごくスーラっぽいと思ったんです。点描に近い、光と色の作り方で。一方で、たくさんの人や物、動物が一枚にいる感じは、スーパーフラット的で。ああいうテイストには、何か理由があったんですか。
いろんな人が見て、正解がない絵を作りたかったんです。最初に描いたのが、安平町にある、小学校と中学校と図書館が一緒になった施設で。震災で小中の建物がだめになって、新しくできた建物なんです。昼休みに子どもたちが見に来たり、近所のおじいちゃん・おばあちゃんが図書館に来て見たり。見る人によって答えが違うのが面白くて。ある人には星に見えて、ある人には犬に見える。そういう、正解のない絵を作り始めたのが最初です。
現代アートって、やや批評性が高いものが多いじゃないですか。社会に物申したい、というような。でもPEPIさんの絵は、そのシニカルさより、お祭りみたいな喜び、祝福がすごく見えてきて。すごく性格のいい人なんだろうな、と思って見ていました。
描くからには、優しさや愛情がちゃんと伝わる絵になったらいいな、という気持ちはありますね。角を作らないようにしているかもしれない。曲線が多くて、線の太さも一定だったり。ピシッとしていないと苦手、という性格が出ているのかも。
塗り重ねる絵と、「渡っていく愛情」
アクリルでレイヤーを重ねて、樹脂を入れていく作品、すごくかっこいいですね。あれはどう始めたんですか。
北海道のアーティストで、30年ほどその手法をやられている武田浩志さんという方の作品がすごく好きで。ご本人に「これ、重ねていいですか」とお願いして、重ね始めたのがきっかけです。去年、枯淡珈琲と一粒の麦さんで個展をさせていただいた時に始めたので、まだ一年くらいで。僕は顔と花を描くのが好きで。花の真ん中に穴を開けて、そこから覗くと、眠っている子どもの顔が見える仕組みを作ったんです。花の中心を愛情に例えて、その穴から子どもの顔を見る。母親と子どものつながり、愛情のつながりのような。僕が絵を描く時にいつも大切にしているのは——人からもらった愛情は、自分のところで無くなるんじゃなくて、また僕から違う人へ渡されていく。だから、その人からもらった愛情は無くならないんだよ、ということなんです。
いいこと言いましたね。今、すごくいいこと言ってます。
これからの展示
今後の予定は。ブリストルのギャラリーにも出されていたとか。
ブリストルは昨日で終わりました。ジャマイカストリートにあるスペースで、グループ展を。最初は10人くらいでやる話だったのが、いつの間にか30人以上の大きなことになっていて。ブリストルは移民の街で、最初からいろんなカルチャーがごちゃ混ぜになって始まった場所だから、面白いんです。国内では、再来週にみゆき通り市場のお祭りがあって、その翌週には壁画を。10月には岩見沢のクピドギャラリーで個展、11月には新千歳空港でライブペイントを予定しています。
B-Side NOTES ― 新千歳空港・国際線の搭乗待合室
今回は、この間行ってきた珍しい場所の話を。新千歳空港の国際線、保安検査場を過ぎた向こう側、搭乗待合室です。川筋さん、行ったことある?
国際線ターミナル自体は行ったことがありますけど、その奥は。
国際線ターミナルの表側は、免税店やお土産屋さんばかりで、実は食べるところがほとんどない。ところが、出国審査をくぐった向こう側に、とんでもなく広い場所があって。免税店が2か所、どちらもすごく大きくて、北海道市場食堂街は、イオンのフードコートくらいの広さがある。かつ丼2500円とか、なかなかの価格ですけど。面白いのが、あのゲートを通ると、書類上は出国したことになるんですよ。荷物のチェックはするけれど、出国申請はしていないのに。「ちょっと海外に来た気分」とか言いながら、テンション高く撮影してきました。
空港って面白いんです。エアラインやエアポートのデザインには昔から憧れがあって。前にいた会社でAIR DOのデザインをやっていたし。関西国際空港は、レンゾ・ピアノ——パリのポンピドゥーも手がけた建築家——がデザインしていると思うし、見どころがたくさん。コペンハーゲンの空港が出しているフリーペーパーを、家具目当てに取り寄せていた時期もありました。あと、空港で流れている音楽も気になっちゃう。ブライアン・イーノが「アンビエント」という音楽を発明したのも、エアポートのシリーズから始まっているんですよね。空港って、ちょっと特別だなと思っていて。
おわりに
今日は、愛にあふれたイラストレーター、安田PEPIさんをお招きしました。かしこまってアーティストとしての話を聞くのは、あまりなかったですね。
一緒に飲む機会のほうが多くて(笑)。友達意識のほうが強いですけど、これからも公私ともに仲良くしていただければ。
ぜひ皆さんも、PEPIさんの絵から愛情を受け取って、他の人へ広げてください。次回は、そろそろコーヒーの話をしようと思っています。配信と同時に、番組の雰囲気に合わせたソングリストをSpotifyにアップしています。リンクはホームページやSNSから。SAPPORO CAFE NOTES、お届けしたのは映像ディレクターの鈴木謙太郎と、
枯淡珈琲の川筋愛友でした。ありがとうございました。
※ 読みやすさのため、話し言葉を一部整えています。内容は本編音声にもとづきます。聞き取りづらい一部の固有名詞は、確認のうえ表記しています。