カフェに連れて行く本
出演:鈴木謙太郎(映像ディレクター)× 川筋愛友(枯淡珈琲)
今週はゲストをお招きせず、二人だけの回。テーマは「カフェに連れて行く本」。『喫茶店の水』『命売ります』『残像に口紅を』、そして『パサージュ論』『世界は「関係」でできている』『一日の終わりの詩集』——それぞれが持ち寄った本をめぐって、特に結論も求めず、コーヒーを片手に、言葉の速度を少しだけ落としてみたくなる時間を語り合いました。
書き起こし
Vol.13「カフェに連れて行く本」本編の会話を、読みやすく編集してお届けします。(出演:鈴木謙太郎/川筋愛友)
今回はゲストなしの二人回
今日も、札幌市中央区 南1条西13丁目にあります「枯淡珈琲」からお届けしています。今回はゲストをお招きせず、僕と川筋さんの二人で。テーマは「カフェに連れて行く本」。コーヒーと本、カフェと読書。それぞれが持ち寄った本の話を、特に結論も求めず、ダラダラとしていきたいと思います。番組の最後のB-Side NOTESでは、この間行ってきた7月のニセコの話を。
今月のコーヒーとスイーツ
収録している今は7月22日ですが、これが配信されるのは8月1日。今月のコーヒーは、何か狙っている路線はあるんですか。
久しぶりに、ブレンドじゃなくてシングルを出そうかなと。たぶん、変わらずエチオピアにはなると思います。ちょっと香り高いエチオピアが手に入ったので、それを使いたくて。今チューニング中、という感じです。
楽しみにしています。そしてスイーツは、とうきびのバスクチーズケーキ。実はこの間、ちらっといただいたんです。おいしいですよ、これ。単純に好きです。
うれしい。あの路線で行こうと思っています。
枯淡珈琲は、スイーツは月替わりだけど、トッピングは定番のものがよく選ばれますよね。僕、あんこが一番合うんじゃないかと思っていて。
うち、あんこを好まれる方が本当に多くて。正直、何を出しても、常連さんほどあんこをマストでつけるんです。どのメニューでも。
配信開始の8月1日の今、駆け込みでスイーツを頼んで、あんこトッピングすべき。予言しておきます。
直木賞・芥川賞の話
本題の前に少し。ついこの間、芥川賞・直木賞の発表がありましたね。直木賞が朝倉かすみさんの『けんぐゎい』。小樽市出身で札幌市在住の方だそうで。大変申し訳ないことに、僕はまだ読んでいないんですが。
札幌の方らしいですよ。気になりますね。
私は、受賞した本はどうかなと思って読むことがあります。
芥川賞も直木賞も、本屋大賞も、そのためにあるんだと思いますよ。それがきっかけで本が人の手に渡るのは、僕は大賛成。否定するわけじゃまったくなくて。実は僕、直木賞というと、河﨑秋子さんにお会いしたことがあって。2年くらい前かな。お会いした時は、別海のあたりで羊飼いをされていて。取材でお宅に伺ったら、おいしいプリンをいただきました。とっても素敵な方で、いろんなお話をさせていただいた。本屋さんにも並ぶと思うので、ぜひ手に取ってみたらいいと思います。そういうきっかけで本と出会うのも、大事ですよね。
カフェに連れて行く本 ― 川筋さん編
私、一冊は喫茶店にまつわる本なんですけど、あと二冊は全然関係なくて。個人的に好きな本を持ってきちゃいました。
「カフェに連れて行く本」とテーマを話したら、困っていましたもんね(笑)。まず分かりやすいのは、喫茶店の本から行きましょうか。
本のタイトルは『喫茶店の水』、左右社さんから。著者はqpさんです。以前、和田硝子器店の和田さんに出ていただいた「お冷グラス」の回の流れで知った本で。「今の私にぴったり」と思って即購入して、盛岡に持って行って読んできました。
その後、僕もお借りして読んだんですけど、すごい本ですね。喫茶店のテーブルに置いてある水を、ひたすら撮りまくっている。いろんなお店に行っては、ただ水を撮って、文章を添えている。読後感はどうでした。
喫茶店の水って、こんなに愛くるしいんだって。お水から視野を広げてくれる、そんな内容の本で。相当マニアックな視点だけど、思ったより読みやすい。エッセイ集というか、写真のほうが多いくらいで。しかも、うちのお店のグラスと同じものが置いてあるお店も載っていて。
その本、お店にも置いてあるんですよね。ぜひそのページを開いて、いろんな想像を膨らませてほしい。ちなみに、枯淡珈琲に置いている本は、どういうセレクトなんですか。
基本的にはコーヒー関連のものを。小説を置いてもいいんですけど、ちょっと照れくさいというか、覗かれるのが恥ずかしくて。この間、人と本を交換したんですよ。それはそれで、楽しいコミュニケーションで。
最近、自分のおすすめの本を棚に並べて、みんながその中から選ぶ、私設図書館みたいなお店も増えましたよね。本を誰かに渡すのは、バトンを渡すような感覚があって面白い。
交換でもらったのが、二冊目。三島由紀夫の『命売ります』という本で。
渋いですね。三島由紀夫。どんな内容なんですか。僕、三島って金閣寺くらいしか知らなくて。
主人公の男性が自殺を図るんですけど、失敗して生き残る。生きる意味を失って「命売ります」と広告を打ったところ、その命を必要とする人が次々に現れて、危険な事件に巻き込まれていく。その中で、なぜ死が怖いのか、命の価値はどこにあるのかと向き合って、最後は「死にたくない」と思う——そんな本です。内容は重たいかもしれないけど、かなり読みやすくて。何より、自分と向き合うことができた本なので、すごく良かった。
普段は、純文学の小説が好きで。というか、基本的に小説しか読まないかも。
逆に僕は、あんまり小説を読まなくて。嫌いじゃないんですけど、単純に読まない。三冊目は。
一番好きな本をあげてください、と言われたら、これを。筒井康隆の『残像に口紅を』。幼少期に『時をかける少女』を読んで、この発想をこの時代からできることに驚いて。それでこの本を読んで、これが一番好きだなと、ずっと思っています。
筒井康隆さんは、僕らの世代だと、星新一さんのショートショートと並んで、SFチックなものが大ブームだった世代なので。どんな本なんですか。
自分の住む世界から、文字が一つずつ消えていく話なんです。たとえば「あ」という文字が消えると、「あ」を含む言葉が使えなくなって、概念や物そのものまで消えてしまう。小説自体も、その消えたルールに沿って書かれていく。一緒にその世界観を体感しながら読み進めていく感じで。筒井さんの言葉の選び方が、すごく好きなんです。実は、私が大好きな『幽☆遊☆白書』にも似た描写が出てきて。そのオマージュなのかなと思うと、そこも相まって好きで。
カフェに連れて行く本 ― 鈴木編
僕は三冊。まず『パサージュ論』の1巻。ヴァルター・ベンヤミンの本で、19世紀のパリの話です。パサージュというのは、パリのあちこちにあるアーケード街で、百貨店の元になったと言われている。そこにいろんな店が集まっている様子を、傍観者的に論じている。思いついたら書き込んだメモの集まりみたいな、コラージュ的な本で、短い章がたくさんある。だからいつでも止められて、カフェで読むのに向いている。1巻が一番読みやすかったです。しかも1巻の描写は、枯淡珈琲のある御幸通り、この三星ビルの雰囲気の中で読むといいかも。この建物のなんとも言えないアンティークな感じとピッタリで。テキストによる映像のモンタージュ、という感じの本です。
もう一冊が、この赤い表紙の『世界は「関係」でできている 美しくも過激な量子論』。量子論の本なんですけど、数式は全然出てきません。誰でも読める物理学の本だと思ってもらって大丈夫です。世界は、何かとの関係で全部成り立っている、それ単独では成り立っていない——完全な孤独はない、という話で。何かとの関係で自分が実在できている、というのは、カフェで読む本として面白いなと。赤い表紙に文字だけ、という装丁もおしゃれで。
ちょっと難しそうだけど、そういうところが面白い。
最後の一冊は、実はもうお店に寄贈しました。長田弘さんの『一日の終わりの詩集』。詩集です。なぜ紹介するかというと、長田さんが残している「詩を読むことは、言葉の速度を落とすことだ」という哲学が、カフェの過ごし方とすごく良くないですか。長田さんは「現代は言葉の速度が速すぎる。詩を読むことで速度を落とし、自分の呼吸を取り戻す」とおっしゃっていた。コーヒーの一杯も、速度を落としてくれるものですよね。長田さんを知ったのは『詩ふたつ』という本で、グスタフ・クリムトが挿絵を描いている詩集なんです。詩人であり、翻訳家でエッセイストでもある方で。短い詩集なので、いつでも読み終えられる。深呼吸するように、息を整えるのにカフェで読んでほしいなと思って紹介しました。
本と、言葉の速度
これは言っても怒られないと思うけど、若いアナウンサーと仕事をしていると、本を読んでいないなと気づくことがあって。長い文章を読めなくなっている。短いセンテンスだけで会話しているんだと思う。
その感覚は私も分かります。本でしか得られない栄養素みたいなものがある。人に本を薦めて「本、読めないんだよね」と言われると、すごく悲しい気持ちになる時があって。
もちろん、長文読解が難しい特性を持っている方もいるので、一概には言えないけれど。自分でそういう環境に置いてしまっている場合も、多々あると思います。分からない言葉が出てきたら調べて、ノートにまとめている。
それはすごい。
本との関わり方が一番大きく変わったのは、自分で本を書いたとき。自分がやった番組を書籍化して、全て書き下ろしたんです。枯淡珈琲にも置いてあります。編集さんとやり取りしながら書くうちに、本との向き合い方が、より深く好きになりました。
私も、筒井康隆を読んでから、言葉選びについてすごく考えるようになりました。年を重ねて、読む系統も変わってきて。昔は角田光代さんがすごく好きで読んでいたんですけど、30代になるにつれて、少しずつ変わってきましたね。
B-Side NOTES ― 夏のニセコ
7月上旬に、仕事でニセコに行ってきたんです。倶知安の「Sprout(スプラウト)」に行ってきました。倶知安駅のすぐ目の前で、駐車場も大きくて。川筋さん、行ったことある?
何度か。いいですよね、スプラウト。おいしいし、素敵な場所で。
スプラウトに行って、すぐ「ワオ」と思ったのが、jobin.さんの作品が飾ってあったこと。ちょうど、いま公開になっているjobin.さんの回を収録した数日後だったので、ドキッとしまして。実は僕、スプラウトには何度か行っていたのに、撮影で行くと奥まで行かなくて、作品に気づいていなかった。お客として行ったら気づけて。やっぱり作品が素敵だなと思って見てきました。花園リゾートにも支店があって、仕事の合間にそこでもコーヒーを買ったくらい。ニセコは楽しい場所ですね。
夏も、外国人の方のほうが多いですよ。基本的に英語圏で。思ったより近いですし。
おわりに
本の紹介、少し照れくささもありましたが。こんなにポッドキャストで喋っていたら、どんな人間かバレていそうですね。ぜひ、普段読まないような本も手に取ってみてください。お店の雰囲気と相まって、思いがけない興味をそそられるかもしれません。枯淡でいろんな本と出会ってください。配信と同時に、番組の雰囲気に合わせたソングリストをSpotifyにアップしています。リンクはホームページやSNSから。
次回のゲストは、川筋さんのお友達で、長沼町地域おこし協力隊の中村来実さん。移住という選択と、写真という仕事について、じっくり話を聞きます。SAPPORO CAFE NOTES、お届けしたのは映像ディレクターの鈴木謙太郎と、
枯淡珈琲の川筋愛友でした。ありがとうございました。
※ 読みやすさのため、話し言葉を一部整えています。内容は本編音声にもとづきます。書名・固有名詞は台本と照合して表記しています。