← SAPPORO CAFE NOTES | 全エピソード
Vol.11 バリスタとブリュワー Vol.11 | 2026.7.4 配信

バリスタとブリュワー

ゲスト:石川蒼さん(バリスタ・@a.happy.o)

「STANDARD COFFEE LAB.」を退職し、フリーランスとして活動を始めた石川蒼さん。高度な抽出技術と美しいラテアートで数々の功績を残してきた彼女が描く未来について、カウンター越しに話を聞きます。

※ Spotifyアカウントなしでも30秒お試し再生できます。続きは各プラットフォームで。

書き起こし

Vol.11「バリスタとブリュワー」本編の会話を、読みやすく編集してお届けします。(聞き手:鈴木謙太郎/川筋愛友、ゲスト:石川蒼)

ゲスト・石川蒼さん

鈴木

今回のゲストは、札幌を拠点にフリーランスのバリスタとして活躍されている石川蒼さん。日本最高峰のバリスタ競技会、ジャパンバリスタチャンピオンシップ——通称JBCで、北海道のバリスタとして初めてファイナリストに選ばれた方です。どういう大会なんですか。

石川

4名の審査員に対して、15分間で、エスプレッソ、カプチーノ、そしてシグネチャービバレッジという創作ドリンクを提供して、素材選び・焙煎・抽出・プレゼン・所作すべてを点数にして競う大会です。三つのドリンクを通して、バリスタとして何を伝えたいのか、がすごく重要になってきます。まず100人くらいから16人が選ばれて、SCAJの大きなステージで準決勝、そこから6人でファイナル、という流れです。

JBCという競技 ― プレゼンテーション

鈴木

何を競っているんだろうと思ったら、プレゼンだと聞いて。実は写真の世界も同じで、良い写真がどういう意味でいいのかを説明できる人が強いんです。コーヒーとカメラは似ている、とよく言われますよね。

石川

15分間、めちゃくちゃ喋るんですけど、情報量を詰め込んでも、聞き手が理解できなかったら意味がなくて。どうしたら理解してもらえるかと思って、アナウンサーさんのところに行って、イントネーションを学んだんです。北海道の人って語尾が下がって、次の話の音も下がりやすいから、耳に入りにくいらしくて。大切な話をする時に少し音を高くすると、耳に残りやすい。それを意識するだけで、プレゼンの点数が今まで見たことのない点数になりました。

アオイ・ロットの話

鈴木

「アオイ・ロット」って、なんですか。

石川

パナマのバンビート農園のゲイシャ種で、私の名前をつけてくれたロットなんです。その前の年に、同じ農園の「レッドキモノ」という豆を使ったんですけど、発酵感が想像以上に強くて、普通に淹れると醤油っぽくなってしまう。そこで、注湯を細かくすると、発酵感を抑えるわけじゃないのに、甘さやコクのフレーバーが出てきてバランスが良くなる、という発見をプレゼンして、ファイナルに行けたんです。農園のイヴァンさんがすごく喜んでくれて、翌年「次はこれを」と、私のための専用ロット「Trail Blazing」を作ってくれた。ただ、前の年に「発酵感が強すぎた」と言っちゃったので、今度はすごく綺麗で優しい味わいになって——逆にインパクトに欠ける、と(笑)。それでも、私のために作ってくれたならと、工夫して使いました。

バリスタに必要なスキル

鈴木

バリスタに必要なスキルって、何だと思いますか。

石川

やっぱり、コミュニケーションじゃないですかね。ただコーヒーを淹れるのがバリスタじゃなくて、コーヒーの価値をお客さんに伝えるのがバリスタだと思っていて。それに、バリスタとお客様、というだけじゃなくて、カウンターにいる皆さんで一つのコーヒーを楽しんで、共有して、共感してもらう時間がすごく好きなんです。そうやってコーヒーの輪が広がっていくのを、この10年で感じることが多くて。コーヒーが元々好きじゃない人も、人と一緒に楽しむことで「もうちょっと知りたい」と思うタイミングが、結構あるんだなと。

鈴木

蒼ちゃんに淹れてもらうと、ずっと喋りながらですよね。ブリュワーの川筋さんとは真逆で。

川筋

全然喋れないです。豆にどう水滴が落ちているか、に集中しすぎて、喋っている余裕がないんですよ。

ミルクの温度と、変わり続ける技術

石川

カフェラテのミルクは、だいたい58〜60度で作っています。カップが温かい状態でエスプレッソに注ぐと、口に含む時が55度くらいになって、飲み込んだ時にぶわっと温かくなる。それ以上熱いと、泡と液体が別々に入ってきて、甘さも感じづらくなる。人の体温に近いほうが甘さを感じやすいんです。ただ、遠くのテーブルやテイクアウトなら、提供までの時間を見て2〜3度上げる。浅煎りの繊細な豆なら、あえて少し温めにして、と、お客さんに伝えて出したりします。

石川

数年前から、大会でも植物性ミルクを使ってOKになったんです。世界で見ると、牛乳が当たり前に使える国はそんなに多くないので。オーツミルクも最近すごく美味しくなって。普段の生活や環境の中からヒントを得て、技術ができてくる。F1みたいに、大会で生まれた技術が一般に広がっていく感じなんです。

バリスタになったきっかけ

石川

もともと絵を描くのが好きで。でも「漫画家じゃ生きていけないよ」と母に言われて。パティシエになりたかったけど、作っているとお客さんと喋れないなと思って。喋りながら作れて、その笑顔を目の前で見られる職業はないかなと思った時に、バリスタを知ったんです。高校1年のオープンキャンパスで、まるみ珈琲店の後藤さんの授業を受けて、初めて描いたラテアートのパンダをめちゃくちゃ褒めてもらって。「私、得意かも」と勘違いして、そのまま突っ込んでいきました(笑)。その後「絵だけじゃだめ、味を極めなさい」と言ってくれたのが、スタンダードコーヒーラボのオーナーで。

フリーランスとして、これから

石川

実は半年前くらいに、いろんな出来事が立て続けに起きて、「バリスタをやめないといけないかも」と思ったんです。でも、この10年見てくれていた人たちや、お客様に「またコーヒーを飲みたい」と言ってもらえて、続けるしかないなと。今はピザ屋のカピターノでアルバイトをしながら、お声がけをいただいて入る、という流れで。今までは最前線で戦ってきたけど、そこから外れて「自分に何ができるか」と考えた時に、美味しい豆があっても淹れ方が分からないお店にアドバイスをしたり、学校で講師をしてバリスタを目指す人を増やしたり——札幌のコーヒーを底上げできる存在になれたらな、と今は思っています。

B-Side NOTES ― 盛岡コーヒーフェスティバル

鈴木

今回は川筋さんに聞きます。盛岡コーヒーフェスティバルに出店したんですよね。どうでしたか。

川筋

ネルドリップのルーツとも言える機屋(はたや)さんが主催で、全国のネルドリップの猛者たちが集まるイベントで。9割がたネルなんです。真夏日の暑い中、屋外のテントで、行列がすごくて、抽出しながらずっと喋っていました。2日で200杯以上淹れましたね。

川筋

自分のコーヒーを見つめ直す時間になりました。焙煎量が増えて、なんとなく焙煎が足早になっていたな、とか。東京のお店のコーヒーを飲んで「なんでこんなに甘いんだろう」と思って、甘さを出すにはある程度時間をかけて弱火でじっくり、と行き着いたり。混むと抽出にも焦りが生まれていたな、と。名店の方たちに会って、まだまだ青二才だな、と反省して帰ってきました。宮沢賢治や石川啄木の町で、古き良きお店がたくさんあって、素敵な場所でした。

川筋

札幌でも、もっとネルドリップを広めたいという気持ちになりました。ドリップ教室で、響いてくれる人が増えたらいいなと。

おわりに

鈴木

今日はキラキラしていましたね。コーヒー屋の未来は明るいぞ、と体感させてくれる子でした。フリーランスバリスタとして、これからの活躍が楽しみです。石川蒼さんの活動は、SNSでチェックしてみてください。配信と同時に、番組の雰囲気に合わせたソングリストをSpotifyにアップしています。お届けしたのは映像ディレクターの鈴木謙太郎と、

川筋

枯淡珈琲の川筋愛友でした。ありがとうございました。

※ 読みやすさのため、話し言葉を一部整えています。内容は本編音声にもとづきます。聞き取りづらい一部の固有名詞は、確認のうえ表記しています。