テーブルの大切なピース・お冷グラス
ゲスト:和田硝子器店 オーナー・和田亜希子さん
カフェの写真を撮るとき、なぜかいつも画角から外れてしまう「お冷グラス」。その存在意義から、木村硝子店の極薄タンブラーや廃ガラス再利用グラスの新潮流まで。テーブルの"名脇役"をめぐる話が止まりませんでした。
書き起こし
Vol.10「テーブルの大切なピース・お冷グラス」本編の会話を、読みやすく編集してお届けします。(聞き手:鈴木謙太郎/川筋愛友、ゲスト:和田亜希子)
お冷グラスが気になった理由
今回は、第5話にもご出演いただいた、和田硝子器店オーナーの和田亜希子さん。前回の収録が終わった後、川筋さんがボソッと「私、お冷グラス大事だと思うんですよ」と言い出して。それに和田さんもすぐ乗ってきて。テーマは「お冷グラス」です。川筋さん、なんでお冷グラスの話になったんでしたっけ。
写真を撮る時に、お冷グラスを切り取って撮る方がすごく多くて、びっくりして。ないなら用意するのはいいんですけど、本当はあるのに避けて撮られると、少し悲しくて。お冷グラスが邪魔なものになってしまっているのかな、と寂しくなった次第です。
業態を問わず、お水用のグラスはやはり皆さん選ばれるんです。まとまった数を同じもので買うのも、一番回転するのもお冷グラス。なんです。
お冷グラスという主役
枯淡珈琲のお冷グラスは、和田さんのところで選んでいるんですよね。
フランスのデュラレックスです。冬は白湯を出すつもりだったので、温かいものも使える耐熱のグラスじゃないといけなくて、最初からこれと決めて買いました。
デュラレックスは全面強化ガラスなんです。日本のよくあるスタッキンググラスは「口部強化」といって、口のリップの部分だけ熱処理をして割れにくくしている。海外のデュラレックスやイタリア製は、ほとんど全面強化なんです。業務用に求められるのは、割れにくさと、スタッキングできること。割れて足りなくなった時に追加しやすいこと。海外製品は廃盤になると総入れ替えになるので、そこも考えながら提案しています。
木村硝子店と、極薄グラスの世界
木村硝子店の極薄グラス、業務用食器専門店でしか扱っていないんですってね。
木村硝子店は完全にB to Bで、飲食店や業務用の食器店に卸す形なので、あまり知られていなかったんですけど、最近は一般の方も知ってくださって。実は、木村硝子店のコンパクトシリーズと、聖徳硝子さんの薄いグラスは、同じところで作っているんです。というのも、木村硝子店は自社工場を持っていなくて。自分たちの製品は、聖徳硝子さんや、東ヨーロッパ、最近は中国のグラスファクトリーに作ってもらっている。デザインを起こして作らせる形だから、リーズナブルなんです。しかもその薄さは、電球を作る技術——傾きで吹いて薄く作る技術——から来ているんですよ。
ただ、極薄グラスは食洗機に入れられない。そこで東洋佐々木硝子が「薄氷(うすらい)」というシリーズを出して。極薄に近い薄さで、日本製で口部強化になっているから、形状によっては重ねてもOK。それを勧めると、決まるケースが多いですね。
あの薄いグラスで飲むと、お酒が美味しいんですよね。僕はほぼ飲まないですけど、東川のクラフトジン「雪の窓」を薄いグラスで飲むのにハマっている、という話を、和田さんに熱弁しました(笑)。
素材のこれから
自動車の窓ガラスをリサイクルして、小樽の深川硝子工芸さんと、廃品回収で有名なMATECさんが一緒に、廃ガラスの再利用グラスを作っていて。木村硝子店がそれを見て、その素材で自分たちの製品を作る、という流れのようです。ブルーグレーで、気泡が入ったりして、決して清らかな感じではないんですけど、水を入れるとまたいいんです。最近はお皿も作られていて。あとは、割れない樹脂素材のものも、アウトドアやパーティーのシーンで増えてきましたね。
「ものが語るから、説明するな」
木村硝子店の社長は「デザインして発売しました、で語るな。説明するな。ものが語るから」と言うんです。工場を持たないのも、作りやすさをデザインに持ち込んで妥協しないため、という側面があるのかもしれない。
それ、一理あるなと。僕も撮影・録音・編集・企画を全部自分でやるから、撮影する時に上がりが見えて、無駄な撮影をしなくなる。でも、それが弱さかなと悩んでいて。デザインとしての強さを求めると、工場を持たないことがむしろメリットになる、というのは腑に落ちます。
私も、味を「果実味」とは書きますけど、「ベリー感が強い」とはあまり書かないようにしていて。先入観なく飲んで、召し上がった方が自由に思ってほしいので。
それ、まさに美学に触れていますよね。プロダクトって、哲学と一緒になっているところがある。すっかりお冷グラスに愛着が湧いてきました。
お冷グラスに、心を奪われた話
この間、菓子工房三浦さんに行ったんです。窓側に座ったら、前面に田んぼの景色があって、空間もスイーツも良くて。そこに佇んでいたお水グラスが——たぶん再生グラスで、少し小ぶりで——それがまた良くて。透明だから、水が注がれると光を乱反射して、テーブルに映し出す。すごく詩的で。気づいたら、逆にカップを避けて、お水グラスだけを撮っていました。私、やっぱりガラスが好きなんですよね。名前につけるくらい。
B-Side NOTES ― Mederu(砂川)
今回は、砂川にある「Mederu(メデル)」を紹介します。5月に久しぶりに空知へ仕事で行って、昔お世話になったお店に顔を出してきたんです。砂川のあたりの国道12号は「スイーツロード」とも呼ばれていて、北菓楼もある。窯焼きパンで有名なStovenさんも回ってきました。メデルは、僕がずいぶん前にやっていた「Eatrip」という番組の頃にお世話になったお店で、僕が書いた本『Eatrip・北海道おいしい一人旅』にも載っています。今は少し丘の方に移転して、緑に包まれた一軒家のカフェに。大きな窓から見える森が季節を伝えてくれて、絵画のフレームのような眺めなんです。しかも、使われている食器が、和田さんのお店のものなんですよ。
そうなんです、食器も可愛くて。
おわりに
グラスを眺める目とか、価値観がちょっと変わりましたね。愛しくなっちゃった。もっとデザインや歴史の話になるかと思ったら、めちゃめちゃ深い、哲学的なところに行きました。
やっててよかった、ポッドキャストって感じでした。和田硝子器店は、枯淡珈琲のすぐそば、南1条西12丁目、アトリエ森彦の2階にあります。ぜひ足を運んで、手に取って選んでみてください。配信と同時に、番組の雰囲気に合わせたソングリストをSpotifyにアップしています。お届けしたのは映像ディレクターの鈴木謙太郎と、
枯淡珈琲の川筋愛友でした。ありがとうございました。
※ 読みやすさのため、話し言葉を一部整えています。内容は本編音声にもとづきます。聞き取りづらい一部の固有名詞は、確認のうえ表記しています。